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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第5章 狼の本性

「花菜は今日、何か良いことでもあった?」

「ん…? いい、こと?」

「そう。なんだか機嫌が良さそうだから」

「そ……そうかなぁ」

分厚いハンバーグを箸で切ってソースと絡めながら、花菜は返事を濁らせた。

夕食を作る計画は何日も前から立てていたわけで、今の彼女の機嫌とは関係ない。

“ わたし、機嫌がいいの…? ”

良いこと──?

それに当てはまる出来事は無い筈だった。

ただ咄嗟に浮かんだのは朝の屋上で──

でも、冷静になればなるほど
あれは " 良いこと " などではない。

「とくに何もなかったけど…」

あの朝の事件を、遭遇してしまった光景を、伊月に話すなんて彼女にはできない。

だから代わりにスープ皿を傾けて、誤魔化すためにゆっくりと飲み込んだ。

それは昨夜…雨に濡れて帰ってきた彼女が、伊月の問いに対してとった行動と同じである。

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