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小悪魔な狼
第2章 二話 オナニー
 後方から、深く息を吸い込む音が聞こえた。それは、生まれたばかりの子猫のように震えていて、私はどんな言葉を浴びせられるのかと、怖くて怖くて仕方がなかった。
 何も言わずに出ていってくれと願っていた私に放られたのは、晴れ渡った空のように青いタオルと、淡白な声だった。

「……風邪、ひきますよ」

 たった一言、そう言うと、彼は踵を返した。
 扉の閉まるパタリという音が、夜半の雨のように物悲しく響いた。落ち着いた足音が遠ざかっていく。
 私はほっとした。指の先から力が抜けて、心がぽかぽかと温かくなった。初めて会った人なのに、確証も無いのに、彼はこのことを言いふらさないような気がしたのだ。
 頭にかぶせられた優しさを裏返せば、そこには丁寧な文字で“宮地”と書かれていた。
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