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それを、口にすれば
第10章 それぞれの想い
「仕事じゃないもの。客の入りなんて見ていないわ」

刺々しい理沙子の声に現実に引き戻される。
恐らく何か言いたいことがあって自分を待ち構えていたのだと……結城は改めて理沙子の言葉に耳を傾けた。

「父が褒めちぎっていたわよ。わざわざパリまで行かなくてもアシルの味が楽しめるようになるなんて……結城君のお陰だって。流石よねえ……貴方は何をしても、いつだって完璧」

「……」

「一流の大学を出て、テニスだってゴルフだってその辺の人には負けない……それに料理もできるし、セックスも上手……美人な妻を前にしても欲情はしないけどね」

「そんなことはないだろう……」

勤めて面倒くさそうな感じを出さないように結城は答える。

勉強やスポーツ、そしてこと仕事に関しては、確かに今までに困ったことは無かった。
持って生まれた能力の高さ……それは両親からのギフトではあったが、しかしそれ以上に結城は努力の人だった。

また、二人がセックスレスになったことに関しては、どちらが悪いとは言えないだろう。

理沙子を抱かなくなってから数年が経つが、そんな結城の目から見ても理沙子は非常に魅力的な容姿を持った女だと言える。

ただ、もう遅すぎる何かが……二人の間には漂っていた。

「何が? ああ、乗馬やチェスだってプロ顔負けよねえ。それとも……セックスの方かしら?」

酒に強い理沙子だったが、今夜は酔った様子で結城にしなだれかかる。
大きくはないが形の良い乳房がネグリジェ越しに押し当てられると、フレグランスの良い香りが結城の鼻をくすぐった。

そして、理沙子の指先がスッと結城の股間の部分に触れたが……その部分には全く変化がなかった。


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