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それを、口にすれば
第11章 求め合う心
この週末は、優雨が以前から気にしていた良介の会社の社員旅行の予定が入っていた。
良介の部署が準備を担当する、あの、毎年恒例の旅行だ。

良介と理沙子が会えないのだから、もしかすると自分も結城と会えないのではないか……と思っていた優雨だったが、こちらはいつも通りでいいと結城から聞かされ、週末が訪れるのを心待ちにしていた。

しかし……。

「はい、申し訳ございません……はい。はい……大切な時に体調を崩してしまって、本当に主人も……。はい、はい……ありがとうございます。……それでは、失礼いたします」

優雨は良介の会社の上司に、病欠の連絡をさせられていた。

旅行当日の朝に、その準備を担当する部下が突然欠席するというのに、受話器の向こう側の良介の上司は思ったよりも寛大な態度で接してくれた。
いや、もしかすると呆れてしまっているだけなのかもしれないが……

「おい、どんな感じだった?」

受話器を置く優雨に、ダイニングテーブルで身を乗り出すように見ていた良介がすかさず声を掛ける。

子供が学校を休むのとは訳が違うし、そんなに気になるのなら自分で電話すればいいのに……と言いたくなるのを優雨は堪える。

それは、夫の言うことに異論を唱えても後々面倒くさいことになるだけだという、一種の諦めだった。

「……お大事にと言って下さっていたわ」

「そうかそうか……ほら見ろっ。やっぱりお前が電話して正解だったな。俺の思った通りだぜ」

突然体調を崩したという話は全くのでたらめだった。
最近仕事に全く身が入っていない良介……このままではいつかサボったりしてしまうのではという優雨の心配が現実となってしまったのだ。

しかも良介はその連絡を優雨に押し付け、その卑怯とも言える態度に優雨は改めて嫌気がさす思いだった。
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