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それを、口にすれば
第3章 淫らな食べもの
――あれから一ヶ月が経ち、結城家で二夫婦揃ってディナーとワインを楽しむことが毎週土曜日の恒例行事となりつつあった。

人見知りで気難しいところのある良介だったが、結城と理沙子は例外のようだ。
理沙子は明るく良介を持ち上げ、結城は豊富な話題でその場を盛り上げる。
慣れない人付き合いをすることに初めは警戒していた良介も、今となっては週末を心待ちにしているようだった。

結城は企業買収……いわゆるM&Aでかなりの成功を収めている人物らしい。
国内だけでなく、海外資本のレストランやホテルなども手掛けるため、社会情勢や良介や優雨の知らない国の話題などに事欠かなかった。

毎月のように海外出張に出るらしく、実際にワインの会が開催されない週末ももう既にあった。
そんな時は良介の機嫌が悪く、優雨相手に嫌味や愚痴ばかり言うので……予定通りに理沙子からのお誘いメールが届くと優雨はホッと胸をなで下すのだった。

結城夫妻との時間は、孤独に苛まれていた優雨にとっても、無くてはならない楽しみの一つになりつつあった。
ただ一つ問題があるとすれば、結城に対してある感情を抱いてしまいそうになる自分自身の心だ。

結城はただ、自分達夫婦を紳士的にもてなしてくれているだけなのに……その一挙一動が気になって仕方がない。
目が、離せなかった。

理沙子は、優雨が結婚してから初めてできた、一番の友人だ。

だから優雨は、その仄かな感情に必死でふたをする。
友人の夫にほんの少しでも胸をときめかせるなんて……優雨にとって、あってはならないことだった。


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