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それを、口にすれば
第12章 被虐の味
台車を持って舞台横の出口から廊下に出ても、誰も理沙子に注目などしない。
旅館の従業員たちは皆、騒ぎを聞きつけて宴会場の中に駆けつけていた。
「あのマナミって子……優雨とタイプが全く一緒じゃない。失礼しちゃう……まあ、あんな男はどうでもいいんだけれど」
もと来た道を戻って、従業員通路を抜け足早に車に戻る。
電話をしたら早く車を出さなくては。
足が付いたらレンタカーを借りた意味がない。
「…………あっ、もしもし警察ですか?! 変質者が旅館に全裸で乱入してきて……目が異常で、怖くて……何をするか……ああっ、すぐに来てくださいっ!」
電話を切ると、理沙子はすぐに車を出した。
優雨は今頃何も知らずに……もしかしたらまた結城と抱き合っているかもしれない。
――今のうちにせいぜい甘い夢でも見ておくがいいわ。
理沙子は理由の分からない虚しさを吹き飛ばすように笑っていた。