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それを、口にすれば
第13章 思いやるということ
――あの事件の夜から一ヶ月が経った。

現行犯逮捕された良介だったが、初犯であったことや、社長の温情――というより、破廉恥な醜聞から自社の名を守りたいという思い――から拘留を免れ、罰金刑のみとなる見通しになっていた。

しかし当然ながら懲戒解雇はされ、そしてその際にはまた新たな経費の使い込みまで発覚してしまった。
百万円近い金が、何のために必要だったのか……また、その使い道はなんだったのか。
優雨には想像もできなかった。

分からないことは他にもあった。

あの夜、理沙子と一緒だったはずの良介が、なぜ一人で会社の宴会が催されている宿に向かい、あの様なことをしたのか。

スマホの電源を切ったまま結城と過ごしていた優雨が、夫がしでかした事件を知ったのはもう夜が明けてからで……理沙子が急に体調を崩し一人部屋で休んでいたことも、良介が一人外出したことも、全く気付くことが出来なかった。

結城とまるで――恋人のように過ごした、夢の様な時間は突然終わってしまった。

そしてあれ以来、優雨の日常は激変し、あの時の様な幸せな時間はもう二度と訪れないのかもしれなかった。








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