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それを、口にすれば
第13章 思いやるということ
平日の午後二時、優雨のパート先である〝くまざき〟は今日も多くの客で賑わっていた。

店の一番の人気メニューは創業当時からの名物であるビフテキをメインとしたコース料理で、その味を求めて遠方から訪れる客も多い。
しかし、ビーフシチューやメンチカツなど、その他の人気メニューを平日に限ってお値打ちに味わえるランチタイムが、この店が一番活気づく時間だった。

ランチタイムが終わる時間ではあるが、まだ料理を待っている客がいる。
そんな、まだ忙しい時間帯に店の電話が鳴り響いた。

すぐに受話器を取らなければ……と思った優雨だったが、それは従業員だからというだけでは無く、実はある個人的な理由があった。

しかしちょうど接客中だった為に、片付けをしていた先輩従業員が受話器を取ってしまった。
そして思った通り、電話に出た彼女の顔はすぐに曇った。

「優雨さん、電話よ。ほら、ホール変わるから」

以前は明るく接してくれていた先輩が、明らかに不審そうな様子で優雨に耳打ちする。

「あ、はい……すみません……」

心から申し訳ないと思いつつも憂鬱な気持ちになり……優雨はため息をついた。

誰からの電話なのかはもう分かっている。
良介が手を出した闇金融の取り立て屋だ……。

使い込んだ金を良介はすぐに返済したが、それは優雨に相談も無く怪しげな場所から金を借りてのことだったのだ。

取り立て屋は、自宅だけでは無く優雨の勤め先のレストランにまですぐにやって来た。
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