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それを、口にすれば
第15章 穢れた時間
翌朝目を覚ますと、結城からまたメールが届いていた。

メールには、早朝の便で上海に向かうことが短く書かれている。
返事を返したいとも思ったが、もう既に現地に到着しているかもしれない……
それに、朝から上機嫌の良介が常に周囲にいてなかなかチャンスを見つけられなかった。

良介は、支度をする優雨の周りをあれこれと言いながら付いて回る。

服装にもうるさく口を出され、優雨は自分が思っていたのと全く違う、白い薄手のニットにスリットが深めの濃紺のタイトスカートという、ボディラインが強調される格好で出掛けることになってしまった。

地味な色合いだし、良介が話していた〝清楚そうな恰好〟という条件から離れてはいない。
しかし、いくら父親ほど年が離れているとは言え初対面の男性と食事をするのにこの服装はちょっと……と優雨が抗議しても、良介は似合う似合うと褒め称え、この服装が一番だと言って譲らなかった。

(そう言えば、この服は理沙子さんから褒められたこともあるし……)

諦めた優雨はそう自分に言い聞かせる。
そしてそれから、良介を何とか寝室から追い出した。
このままではいつまでも寝室に居座って、下着にまで注文をつけそうな勢いだったからだ。

一人になり下着の入った引き出しを開けると、手前にある白のブラジャーを手に取る。
優雨の下着は昔から殆どが白だったが、その白い引き出しの中で、結城から贈られた濃い赤の一揃えだけが異彩を放っていた。

「結城さん……」

そう呟いて触れた指先に、赤が映ってほんのり染まったように見える。

――会いたい――

そんな思いが突き上げる。

しかし、話をするのはやはり、結城が日本に戻り、そして自分の問題が片付いてからだ……

すぐ隣に住んでいるのに、簡単には会えない二人の間の距離がもどかしかった。






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