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それを、口にすれば
第8章 空を駆ける言葉
朝食の準備を終えてから良介を起こしに行ったが、なかなか起きてくれない。
良介が理沙子のもとから戻って来たのは結局明け方で、寝不足なのは明らかだった。
なんとかベッドから這い出した良介と朝食を囲むが、くちゃくちゃと音を立てながら卵焼きを食べる良介の目はうつろで……何を考えているのか分からない。
最近の良介は、はたから見ていても全く仕事に身が入っていないように思う。
その様子は、このままだとなんだかんだと理由をつけてサボってしまう日もそう遠くない気がするくらいだった。
良介は、中規模の製造業の会社で事務をやっている。
以前は経理関係を一手に任されていて、信用金庫に勤めていた優雨と知り合ったのはその頃だった。しかし、例の経費の使い込みをして以来ずっと今のポジションにいた。
年齢相応の役職も与えられず、雑務も多いと愚痴ばかりこぼしているが……。
使い込みなんかをしたのに今でも雇ってくれている訳だし、残業も殆どない。
おそらく勤務態度もそれほど良いとは思えない良介を雇い続けてくれていることを思えば、ありがたい話なのではないかと優雨は密かに思っていた。
そんなことを良介に言える筈はないけれど。
そこまで考えたところで、優雨はあることを思い出していた。
そう言えば、年に一度の社員旅行が近い時期なのではないだろうか。
派手な会社ではないが、社長の意向で創立記念日付近には皆で近場の温泉宿で一泊するのだ。
良介も、打ち合わせなどでこの時期だけは少し残業があったりするのに……今年はどうなっているのだろう?
「ねえ、あなた……」
問いかけようとしたが、良介の注意はテレビに向いていて、優雨の声は届かないようだ。
テレビの中では有名人の不倫についての報道がにぎやかにされていた。
「なあにが魔が差しただよ……男なら誰だっていい女とヤリたいに決まってるだろうが」
「女房の何が怖いってんだよ。アホかこいつ」
目が覚めて来たのか、画面に向かって一人で突っ込みを入れている良介を見ても、もう何も感じない。
別にいいか……。
そんな風に思うと、なぜだかホッとした。
もう、無理して良い妻を演じなくてもいいのだ。
どうせ良介も自分を求めていない。
良介が理沙子のもとから戻って来たのは結局明け方で、寝不足なのは明らかだった。
なんとかベッドから這い出した良介と朝食を囲むが、くちゃくちゃと音を立てながら卵焼きを食べる良介の目はうつろで……何を考えているのか分からない。
最近の良介は、はたから見ていても全く仕事に身が入っていないように思う。
その様子は、このままだとなんだかんだと理由をつけてサボってしまう日もそう遠くない気がするくらいだった。
良介は、中規模の製造業の会社で事務をやっている。
以前は経理関係を一手に任されていて、信用金庫に勤めていた優雨と知り合ったのはその頃だった。しかし、例の経費の使い込みをして以来ずっと今のポジションにいた。
年齢相応の役職も与えられず、雑務も多いと愚痴ばかりこぼしているが……。
使い込みなんかをしたのに今でも雇ってくれている訳だし、残業も殆どない。
おそらく勤務態度もそれほど良いとは思えない良介を雇い続けてくれていることを思えば、ありがたい話なのではないかと優雨は密かに思っていた。
そんなことを良介に言える筈はないけれど。
そこまで考えたところで、優雨はあることを思い出していた。
そう言えば、年に一度の社員旅行が近い時期なのではないだろうか。
派手な会社ではないが、社長の意向で創立記念日付近には皆で近場の温泉宿で一泊するのだ。
良介も、打ち合わせなどでこの時期だけは少し残業があったりするのに……今年はどうなっているのだろう?
「ねえ、あなた……」
問いかけようとしたが、良介の注意はテレビに向いていて、優雨の声は届かないようだ。
テレビの中では有名人の不倫についての報道がにぎやかにされていた。
「なあにが魔が差しただよ……男なら誰だっていい女とヤリたいに決まってるだろうが」
「女房の何が怖いってんだよ。アホかこいつ」
目が覚めて来たのか、画面に向かって一人で突っ込みを入れている良介を見ても、もう何も感じない。
別にいいか……。
そんな風に思うと、なぜだかホッとした。
もう、無理して良い妻を演じなくてもいいのだ。
どうせ良介も自分を求めていない。