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それを、口にすれば
第9章 けれど、愛してる
「優雨に飲ませたいものがあるんだ。キッチンを借りるよ。リビングで待っていなさい」

何をしても器用な結城は、今までにもキッチンに立ち、つまみを用意してくれたりしたことがあった。しかし、そんな時はいつも優雨と一緒だった。

ワインで何かをつくるのだろうか……?
酒の弱い優雨に、酒を勧めてくることは今まであまりなかったけれど……。

自分のキッチンを使われるときは、いつも少しだけ緊張する。
カウンターテーブルの向こうの結城の背中を、優雨は落ち着かない気持ちで見つめていた。

「あ、いい匂い……」

しばらくすると、なんとも言えない甘い、でも複雑な香りが漂ってくる。

優雨の声に結城は振り向き少し笑っただけで、何も答えない。
その笑顔は穏やかで……話さなければならないことはたくさんあったが、すぐに深刻な雰囲気にならなかったことに優雨は安堵した。

久しぶりに会えたのだから今はただ二人の時間を大切に過ごしたい……きっとお互いにそんな気持ちなのだ。
言葉にしなくても、それを感じ合うほどに。

「待たせたね」

しばらくすると、結城がトレイを運んで来てくれた。
トレイに乗せられているのは、家には無かった二つのコロッと丸いグラスに入れられた赤ワインだ。

そして、コットンカバーのソファーに二人は並んで腰かけた。
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