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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
これはなんと呼ぶのだっけと、一瞬で止まってしまった思考を動かせば、やっとある言葉が浮かぶ。
棚田。
小さな山を背に、その裾から海の際まで、視界全て……ずうっと遠くにまで拓かれているのは、広大な──棚田だった。
細い畦道で不規則に区切られた田は豪勢な雛壇のように層を成して伸びており、大地に不思議な紋様を形作っている。その田にはすべてに水入れがされ、鏡面となった水面が微かな風にもちらちらと揺れて、煌めいていた。
何より……海から山までそれを一直線に貫くように、幾重にも幾重にも折り重なって水面に落ちる朧の月が、美しい。まるで光の階段が田中に現れたようで、もしあそこを上にも下にも歩けるのなら、本当に月の世界にまで辿り着けるのではないかとさえ神依は思った。
そんな光と影の、わずかな明度の差だけでできた春夜の世界。ともすれば、それしかない空間なのに──この圧倒的な存在感は何だろう。際立って目立つような豪奢な建物があるわけでもない。それでもその妖美な空間は、一気に神依の心と感覚を呑み込んだ。黒の紗(うすぎぬ)に、ふうわりと包まれているようだった。
「──すごい……綺麗」
「だろう──」
棚田。
小さな山を背に、その裾から海の際まで、視界全て……ずうっと遠くにまで拓かれているのは、広大な──棚田だった。
細い畦道で不規則に区切られた田は豪勢な雛壇のように層を成して伸びており、大地に不思議な紋様を形作っている。その田にはすべてに水入れがされ、鏡面となった水面が微かな風にもちらちらと揺れて、煌めいていた。
何より……海から山までそれを一直線に貫くように、幾重にも幾重にも折り重なって水面に落ちる朧の月が、美しい。まるで光の階段が田中に現れたようで、もしあそこを上にも下にも歩けるのなら、本当に月の世界にまで辿り着けるのではないかとさえ神依は思った。
そんな光と影の、わずかな明度の差だけでできた春夜の世界。ともすれば、それしかない空間なのに──この圧倒的な存在感は何だろう。際立って目立つような豪奢な建物があるわけでもない。それでもその妖美な空間は、一気に神依の心と感覚を呑み込んだ。黒の紗(うすぎぬ)に、ふうわりと包まれているようだった。
「──すごい……綺麗」
「だろう──」