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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
忘れていた息を吐き出すようにようやくそれだけ口にすれば、日嗣は再び神依の手を引き、段を下へと向かう。その間も神依は反対側を見続け、共に月の階(きざはし)を視線で降る。
 田と田の間には道具置き場になっているのかぽつぽつと古びた小屋があるだけ。それを除く一面が傍らに在る神の司するものであることを思い出せば、この月の光を一面に敷き詰めてふくらませたような、瞼を黄金に染める稲穂の波が神依の頭に浮かんだ。それこそきっと、月の齢の階段を登りきった後の世界。
 「一度お前に見せたかったんだ。なかなか、荘厳だろう」
「はい……!」
「よかった」
言葉は少なくとも、その声音だけで自分の高揚は男に伝わったらしい。それだけでは足りず繋いだ手を揺らせば、更に大きく揺らし返してくれた。
 その棚田の中腹にある一区画は、小さな社とこんもりとした鎮守の森に宛がわれていた。社の前は広場のようになっており、日嗣はその片隅に設けられた東屋(あずまや)に神依を導く。
「あの社は稲荷だ。この類いの社は、山の中腹に造られることが多い」
「人に近しい神様ってことですか?」
「そうだな──そういう考え方もできるかもしれないな」
東屋の中心には小さな円卓が備え付けられており、壁に沿ってぐるりと座席が設けられていた。童達が仕事をしている間、匠が書き物をするのに使うらしい。
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