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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
 神依はそこに座り込み、目に映る春夜の景色と、心に映る秋天の景色を行き来する。
 風に運ばれるほのかな土の芳香が草のものに変わり、水音は波音に変わる。月の道は稲穂の滝になって、あの遠くの雲海まで流れ出でていくことだろう──。
 「もうお田植えなんですね」
「ああ、今年は苗の出来も上々らしい。春先には村々でも豊作を祈る祭があって、特に盛大にやってくれたようだ。御田植祭も楽しみだと言ってくれた。もちろん、童達もな」
「あ、それ奥社でも行事があるんですよ。奥社にも小さな田んぼがあって、お田植えをするって。今年は神様も特別忙しそうね、って優沙ちゃんも言ってたし」
友の口調を真似れば、ふと傍らの神は目を反らす。
「……いや、まあ……そうなった原因は……その、気恥ずかしいがな」
「……あ、そっか。そういうことだったんだ……」
知らない内に知らないところで知らない風に広がったらしい自分達の恋物語は、まことしやかに囁かれて。神依はようやく、友の言葉の機微に気付く。からかわれていたらしい。
 繋いだままだった手がじわりと熱を帯びて、自分の方が恥ずかしくなってしまった。でも、それでも──嬉しく思ってしまうのは、きっと今がすごく幸せだからだろう。
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