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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
けれど訪れるはずもない答えに、神依が名残惜しく視線を戻せば、日嗣はまた先を続けた。
「……私達が申すのも何だが、このような時間に姿を現したのだ。何か特別な用向きがあるのだろう。面を上げよ」
『はい──ありがとう存じます』
お人形のようなその女神は、相変わらず綺麗な所作で体を起こす。
透けるような白い肌にすらりとした瓜実顔。眉も丸く描かれ、梅の花弁のように塗られた口紅もそれらしい。しかし髪や毛並みは子狐と同じ──闇に尾を引く星のような、白銀の色をしていた。
「えっと……では、あなたも狐の神様なのですね」
『左様にございます、姫様』
神依はその小さな女神に巫女として礼を取り、語りかける。傍らに添う男の立場を考えれば、小さな女神に取っては神依に頭を下げられるのも不思議な気がしたが、おそらく生来そういうたちなのだろうとすぐに穏やかに応じ、頷いてみせた。
『しかしながら、わたくしは独神(ひとりがみ)にて……この地に祭られて後、ここに出入りする皆々によく奉られて長く平穏な時を過ごして参りましたが、いささか平穏に過ぎてしまったのか……。
いいえ、それが幸いであることに代わりはなけれど、今こうして年を経ても、未だ子を持つこと叶わず──』
「あ……」
「……私達が申すのも何だが、このような時間に姿を現したのだ。何か特別な用向きがあるのだろう。面を上げよ」
『はい──ありがとう存じます』
お人形のようなその女神は、相変わらず綺麗な所作で体を起こす。
透けるような白い肌にすらりとした瓜実顔。眉も丸く描かれ、梅の花弁のように塗られた口紅もそれらしい。しかし髪や毛並みは子狐と同じ──闇に尾を引く星のような、白銀の色をしていた。
「えっと……では、あなたも狐の神様なのですね」
『左様にございます、姫様』
神依はその小さな女神に巫女として礼を取り、語りかける。傍らに添う男の立場を考えれば、小さな女神に取っては神依に頭を下げられるのも不思議な気がしたが、おそらく生来そういうたちなのだろうとすぐに穏やかに応じ、頷いてみせた。
『しかしながら、わたくしは独神(ひとりがみ)にて……この地に祭られて後、ここに出入りする皆々によく奉られて長く平穏な時を過ごして参りましたが、いささか平穏に過ぎてしまったのか……。
いいえ、それが幸いであることに代わりはなけれど、今こうして年を経ても、未だ子を持つこと叶わず──』
「あ……」