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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
「──わあっ。日嗣様、後ろ後ろ」
「ああ」
木立を空に向かって抜ければ、今しがた目の当たりにしてきた棚田がそれよりももっと遠く、もっと広く一望できた。月光の階も緩やかに、淡島の途方もない八衢の、遥か見えない、水平線の彼方にまで伸びきっている。
「私も自分で飛べたらなあ」
「いや。お前は捕まえておくのが大変そうだから、今のままでいい」
「ちゃんと日嗣様のところに帰ってきますよ。前も、そうだったでしょう?」
「……素直に頷けないのは何故だろうな。待つにも命が足りなくなりそうだから、やはりこうして掴まっていろ」
「地を歩く時は手を繋いで?」
「ああ。その方が、幾らか安心できる」
「ふふ」
淡島の朧な雲海を眼下に、神依は自分を拐う男神に身を任せて温い風を肌で味わう。独占欲とも少し異なる男の物言いは、柔く、優しい。
「そういえば──」
「はい」
「あの時、俺も約束していたんだった。姿なき母なる女神と、花の窟で……この広い世界の、広い腕(かいな)に、沢山の子を抱かせると」
「えっ……」
「だから、お前とは……今日のように少しずつ、何かを産み出していけたらいいな。もう寂しくならないように、どこへ行っても私達の子が在り、どこへ行かなくとも毎日のように向こうから遊びに来るくらい、沢山。だからつまり、それには──」
「……」
「ああ」
木立を空に向かって抜ければ、今しがた目の当たりにしてきた棚田がそれよりももっと遠く、もっと広く一望できた。月光の階も緩やかに、淡島の途方もない八衢の、遥か見えない、水平線の彼方にまで伸びきっている。
「私も自分で飛べたらなあ」
「いや。お前は捕まえておくのが大変そうだから、今のままでいい」
「ちゃんと日嗣様のところに帰ってきますよ。前も、そうだったでしょう?」
「……素直に頷けないのは何故だろうな。待つにも命が足りなくなりそうだから、やはりこうして掴まっていろ」
「地を歩く時は手を繋いで?」
「ああ。その方が、幾らか安心できる」
「ふふ」
淡島の朧な雲海を眼下に、神依は自分を拐う男神に身を任せて温い風を肌で味わう。独占欲とも少し異なる男の物言いは、柔く、優しい。
「そういえば──」
「はい」
「あの時、俺も約束していたんだった。姿なき母なる女神と、花の窟で……この広い世界の、広い腕(かいな)に、沢山の子を抱かせると」
「えっ……」
「だから、お前とは……今日のように少しずつ、何かを産み出していけたらいいな。もう寂しくならないように、どこへ行っても私達の子が在り、どこへ行かなくとも毎日のように向こうから遊びに来るくらい、沢山。だからつまり、それには──」
「……」