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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
「今夜から励まないとな」
「……ばか」
「ん? ……お前は私の子を、生んでくれるのだろう?」
「──日嗣様の、大ばかっ!」
言い様にぽかりと胸元を殴り、むくれた顔をしてみせても男神はただ愉快そうに笑うばかり。その照れ隠しでしかない愛嬌たっぷりの罵り言葉と暴力を堪能できるのも、今の日嗣に取っては幸せの内だった。
けれども──
(……これから先もずっと、神依と神依を取り巻く者達、そしてあのひたむきな淡島の人々と……共に在れるように)
今度同じことをするときは、今日より遥かに欲張りなものを希(こいねが)おうと心の中で決めて。
またあの瞬間だけは、自分の願いが腕の中の恋妻と同じであったことを祈り、二人は我が子達の幸せな未来について語りながら、ゆっくりと家路に着いたのだった。
*
──翌日。
猿彦が神依の家を訪ねたのは、昼の少し前だった。
今日の淡島はお天気雨。薄く細かい雨粒が、光の糸となって雲海にぱらぱらと落ちていく。灰色の雲が風に流され、千切れた隙間からは光芒が射し込んでいる。波は光を受け止め、或いは透過させて、大気を眩いものへと変化させていた。
春雨にしては──澄み過ぎている景色。どうも何か、「ありそう」な空模様だった。
「……ばか」
「ん? ……お前は私の子を、生んでくれるのだろう?」
「──日嗣様の、大ばかっ!」
言い様にぽかりと胸元を殴り、むくれた顔をしてみせても男神はただ愉快そうに笑うばかり。その照れ隠しでしかない愛嬌たっぷりの罵り言葉と暴力を堪能できるのも、今の日嗣に取っては幸せの内だった。
けれども──
(……これから先もずっと、神依と神依を取り巻く者達、そしてあのひたむきな淡島の人々と……共に在れるように)
今度同じことをするときは、今日より遥かに欲張りなものを希(こいねが)おうと心の中で決めて。
またあの瞬間だけは、自分の願いが腕の中の恋妻と同じであったことを祈り、二人は我が子達の幸せな未来について語りながら、ゆっくりと家路に着いたのだった。
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──翌日。
猿彦が神依の家を訪ねたのは、昼の少し前だった。
今日の淡島はお天気雨。薄く細かい雨粒が、光の糸となって雲海にぱらぱらと落ちていく。灰色の雲が風に流され、千切れた隙間からは光芒が射し込んでいる。波は光を受け止め、或いは透過させて、大気を眩いものへと変化させていた。
春雨にしては──澄み過ぎている景色。どうも何か、「ありそう」な空模様だった。