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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
「狐の嫁入りだな。早いところはもう田植えや畑仕事が始まってる時期だし、気にするこってもねえ気もするが……」
猿彦は自らも菓子を頂戴し、その紙包みを隣に回しながら続ける。
「ところで童は、今日はサボりか? この時期は忙しいんだろ。孫と出掛けるって聞いてたんだけどな」
「猿彦様、さぼりって何?」
「あー。そりゃまあ、教えたら変な言葉教えんなって俺が孫に怒られる言葉。で、仕事はどうしたんだ?」
「それが──邪魔だから帰れって、匠が」
「邪魔?」
一体何があったのだろうと詳しく話を聞けば、どうやら大方は、大きな弟分のせいらしかった。
日嗣を伴って行った先の棚田で二柱の若い狐神に好かれ、構って欲しいのか行く先々に付いて回られたり悪戯されたり、とにかく大変だったらしい。また日嗣も困ったような振りをしながらそれを許し、なまじ甘やかしていたために二人して摘まみ出されたのだという。
「──で、その一緒に追い出された孫は?」
「あちらです」
「んん?」
そこへちょうど、酒の乗った盆と手拭いを手にした見慣れた仏頂面の禊が現れ、呆れたような眼差しで廊下の向こうを示す。
その先は、日嗣の──元は神を迎えるための、あの部屋であった。
猿彦は自らも菓子を頂戴し、その紙包みを隣に回しながら続ける。
「ところで童は、今日はサボりか? この時期は忙しいんだろ。孫と出掛けるって聞いてたんだけどな」
「猿彦様、さぼりって何?」
「あー。そりゃまあ、教えたら変な言葉教えんなって俺が孫に怒られる言葉。で、仕事はどうしたんだ?」
「それが──邪魔だから帰れって、匠が」
「邪魔?」
一体何があったのだろうと詳しく話を聞けば、どうやら大方は、大きな弟分のせいらしかった。
日嗣を伴って行った先の棚田で二柱の若い狐神に好かれ、構って欲しいのか行く先々に付いて回られたり悪戯されたり、とにかく大変だったらしい。また日嗣も困ったような振りをしながらそれを許し、なまじ甘やかしていたために二人して摘まみ出されたのだという。
「──で、その一緒に追い出された孫は?」
「あちらです」
「んん?」
そこへちょうど、酒の乗った盆と手拭いを手にした見慣れた仏頂面の禊が現れ、呆れたような眼差しで廊下の向こうを示す。
その先は、日嗣の──元は神を迎えるための、あの部屋であった。