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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺

傘爺はもぞもぞと何か動いていたが、すぐにお茶を淹れているのだと分かる。ベッドテーブルの隅に二つ、苺柄のマグカップと愛想のない白の湯呑みがコトリと置かれて、煙がふわっと上がった。
おばあちゃんは傘爺と言葉を交わしながら、また何回かのんびりと針を通すと満足そうに布の輪を眺め、ようやく刺繍道具を脇に置いた。
置いて──マグカップを取ろうと体の向きを変えた一瞬、二人と目が合う。
詩織は詠士と二人して同じように息を呑み、向き合うおばあちゃんもまた、何かありえないものを見たかのようにその動きを止めた。よほど驚いたのか、息を吸いすぎて細い肩がわずかに上がり、胸元がふくらむのがストール越しにも見て取れた。
それで傘爺も何かに気付いたのか、二人の方に振り返る。と同時に、
「──帰ってきた……」
おばあちゃんはそのシワだらけの顔をさらにしわくちゃにして笑い、胸いっぱいの空気を吐き出すのと一緒に、その言葉を紡いだ。
「──ねえ、あなた……帰ってきたのよ。あの子が、帰ってきた」
「……」
あばあちゃんは傘爺の古びたコートの袖口を引っ張り、なおもそれを訴える。
おばあちゃんは傘爺と言葉を交わしながら、また何回かのんびりと針を通すと満足そうに布の輪を眺め、ようやく刺繍道具を脇に置いた。
置いて──マグカップを取ろうと体の向きを変えた一瞬、二人と目が合う。
詩織は詠士と二人して同じように息を呑み、向き合うおばあちゃんもまた、何かありえないものを見たかのようにその動きを止めた。よほど驚いたのか、息を吸いすぎて細い肩がわずかに上がり、胸元がふくらむのがストール越しにも見て取れた。
それで傘爺も何かに気付いたのか、二人の方に振り返る。と同時に、
「──帰ってきた……」
おばあちゃんはそのシワだらけの顔をさらにしわくちゃにして笑い、胸いっぱいの空気を吐き出すのと一緒に、その言葉を紡いだ。
「──ねえ、あなた……帰ってきたのよ。あの子が、帰ってきた」
「……」
あばあちゃんは傘爺の古びたコートの袖口を引っ張り、なおもそれを訴える。

