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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺

「ああ、お腹も空いたでしょう。あの日お母さんね、お夕飯の準備して待ってたのよ。珍しくお父さんも早く帰れるっていうから。それなのに──ねえ、あなた。ここに何か、美味しいものはなかったかしら」
「……」
傘爺は何も答えない。詩織が目だけで窺えば、傘爺は苦しそうな、困ったような、そんなシワをおでこや唇に刻んでいる。
泣きたいのだろうか。
その間にも、おばあちゃんは近くにあった巾着から何かを取り出すと、今度は結んだ手を詠士の胸元に差し出してきた。
「食べて。ほら、あなたも」
「ん……」
グーの形の手の下で、それより小さな手をパーに広げれば、ぽとりぽとりと落とされる飴玉。霜のようなお砂糖がついている。詠士がピンクで、詩織は水色。その二つの飴とおばあちゃんの顔を順番に見れば、おばあちゃんはまるで友達を見るかのようにニコニコと笑いながら、こちらを見ていた。
「……ん、と。……ありがとう」
「あっ、ありがとうございます」
ようやく口を開いた詠士につられて、詩織も早口にお礼の言葉を紡ぐ。
本当は、知らない人から物をもらってはいけないのだけど。お母さんやお父さんとの約束を破ってしまったことに、心臓がドキリと波打つ。しかし、飴を突き返すことはできなかった。
「……」
傘爺は何も答えない。詩織が目だけで窺えば、傘爺は苦しそうな、困ったような、そんなシワをおでこや唇に刻んでいる。
泣きたいのだろうか。
その間にも、おばあちゃんは近くにあった巾着から何かを取り出すと、今度は結んだ手を詠士の胸元に差し出してきた。
「食べて。ほら、あなたも」
「ん……」
グーの形の手の下で、それより小さな手をパーに広げれば、ぽとりぽとりと落とされる飴玉。霜のようなお砂糖がついている。詠士がピンクで、詩織は水色。その二つの飴とおばあちゃんの顔を順番に見れば、おばあちゃんはまるで友達を見るかのようにニコニコと笑いながら、こちらを見ていた。
「……ん、と。……ありがとう」
「あっ、ありがとうございます」
ようやく口を開いた詠士につられて、詩織も早口にお礼の言葉を紡ぐ。
本当は、知らない人から物をもらってはいけないのだけど。お母さんやお父さんとの約束を破ってしまったことに、心臓がドキリと波打つ。しかし、飴を突き返すことはできなかった。

