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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺
 詠士も同じようで、手に飴を乗せたまま、何を言うべきか迷っている。
 雨の音。
 時間が止まったかのような、静かな部屋。小学校に入って、初めてテストを受けた日のことを思い出す。一生懸命な鉛筆の音だけが、屋根に落ちる雨のようにトントンと重なって、いつもは賑やかな教室をこんな静かな時間と空間とに変えてしまっていた。
 そんな教室から見る外の景色──外の世界はまるで詩織の知らない世界に見えて……車だったり飛行機だったり、知らない世界で知らない人達が活きている音は特別なものに感じた。その不思議な感覚が好きだった。
 なぜかその感覚が懐かしくて……だけど、今日の窓ガラスは手のひらに乗る飴玉の砂糖みたいな、雨の水玉に覆われている。ぼやけた世界。そのひとしずくが、他のしずくを巻き込みながら音もなく流れる。あんなところに、あんな鉄塔があっただろうか。
 一筋開けた世界はまた新しい水玉に隠され、その雨の主である傘爺の顔も、まだ重たげに曇ったまま。
 それがとても寂しげで、「かわいそう」なものに思えて、胸がきゅうっと締め付けられて──詩織は、何か自分にできることはないのだろうかと、思い切って口を開いた。
「あっ……あの……!」
「……」
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