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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺
 見上げた瞬間、曇り空の目と視線が交わる。
 その目は詩織の幼い憐憫と同情を見抜き、見抜いたからこそ目の前の少女と自らの身の上の歴然たる違いを察して、あの重たげな瞼をやわらかく落とす。
 泣きたいのではない。もう、泣けない。何をするにももう遅すぎて、それを分かっているというのに未練がましくこうして外の世界にふらりと出でて、唯一孤独を共にできる妻の元を訪れる。
 諦めて、諦め切れなくて、諦めて、諦め切れなくて。
 疲れて、奮い立って、疲れて、奮い立って、疲れて、奮い立って。
 その無限の繰り返しに心はうつつから離れて、結局、その繰り返しの中でしか生きられなくなってしまった。閉じ込められてしまった。
 そこはずっと、雨と曇り空。雨と曇り空。雨と曇り空。
 だから色鮮やかで、幼く、甘い──でも舐めれば溶けてしまうような小さな心を、こんなところに寄せなくていい。いいんだよ──と、瞼の下の潤んだ目が優しく詩織の眼差しを突き返して、それを感じ取った詩織の心には、もうどうする術も力もなかった。
 ただ生温かい、柔らかいぬかるみに包まれて、やり過ごすことしか今の自分にはできないのだと、賢(さか)しらに悟るのが精一杯だった。
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