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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺
 どこか、それほど遠くない場所で音楽が鳴る。夕焼け小焼け。いつも聞いている音楽と違う。夕焼けの橙色なんてどこにもないのに音は空に広がって、耳に届く前に雨音に裂かれて、ゆらゆらと不安定に落ちてくる。
 そしてそれを合図にしたかのように、傘爺が動いた。
「……さあ、もう遅くなるから、帰ろう」
お前もご飯の時間だろう、と傘爺はおばあちゃんに優しく語りかけて、ベッドを回り込んでくる。自分と詠士をベッドから離すようにして、乱れたお布団を直す。
「ねえ、待ってあなた。今日はみんなで、お夕飯食べるんでしょ? 私、すごく頑張ったんだから。そう──ねえ、テーブルは? こんな小さいのじゃダメよ、椅子も準備して。……ううん、ここはどこ? うちじゃない。うちに帰らなきゃ」
「ああ。すぐに、準備するから。私は先に、この子を送ってくるよ」
「待って!! 駄目、行かないで! ──違う、違う、お願い、絶対よ。絶対にこの子を連れて帰って。うちに帰ってちょうだい。私、お帰りなさいって言わなきゃいけないの。私、ずっとあのうちで待ってるから──帰ったら、ちゃんとお台所まで聞こえるように、ただいまって言って! あなたもよ──いい!?」
「ああ。……ああ」
傘爺はそれ以上を答えず、さあ行こう、と短く呟いて自分と詠士の肩を抱いて、出入り口の方へと促す。
 ふと、詠士と目が合う。どうしていいか分からず、迷ったような顔。なんだか「らしく」なくて、詠士じゃないみたいだった。
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