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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺


 3、2、1と階を降り、えいっと回転扉をくぐる。
 雨は来たときと変わらず空から降り注いでいて、世界は灰色の霧に包まれたままだった。三階から見た鉄塔は行方不明。自分達の世界は、まだ低くてせまい。その代わりにかわいい花とかキレイな石とか、小さな宝物を見付けることができる。
 二人の後から続いてきた傘爺は、詩織達がしたように一度ぐるりと辺りを見回すと、すまなかったね、と呟いた。詩織達が振り返ると、先をゆっくりと続ける。
「ビックリしただろう。妻は、少し病んでいてね……いなくなった娘を、君達に重ねてしまったんだろう」
「むすめ?」
「ああ……この水色の傘が、お気に入りだったんだ。君達よりは、少しお姉さんだったけど」
 ──でも、ある日いなくなってしまった。
ギュッと握りしめた古ぼけた傘を手に、寂しそうにそう呟く老人は……最初に見たときよりも弱々しく、小さく見えた。それこそ幽霊か人間かわからないくらいに、霧に紛れて消えてしまいそうな気配がした。
 いなくなったって、「いえで」とか「引っ越し」かな? と自分には少し未知の言葉を思い浮かべ、詩織は曖昧に頷く。それに触れることはタブーなのだと、それだけは子供ながらに感じ取ることができた。
「えっと……ごめんなさい」
「……」
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