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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺
「そうすると、お父さんがお母さんに怒られないかい?」
「すごい! どうして分かるの?」
「私も、さっきのおばあちゃんに怒られたことがあるからだよ。まだ……娘が小さくて、私も仕事が落ち着いていた頃」
「……」
「いつから、私は愛しく怒られなくなったんだろうね……。娘のことも妻に任せきりで、その妻とも小さな諍いが増えていって……私はいつからか、自分の家が信じられなくなっていた気がする。
答えてくれるものならば、私は今も誰かに問いたい。私は……怠惰だったのだろうかと。娘が好きだったもの、妻が私に話したかった日々の想い……妻や娘のことを知ったのは、娘が消えてからの方がずっと多かった気がするんだ。ああすればよかったこうすればよかったと、今になって後悔より重い罪悪感が心にのしかかってきて、なのに頭はからっぽになってしまう。そんなだから──」
ふと、どこか遠くの空を見るように、おじいさんが顔を上げる。その視線と、言葉と。それで詩織は、おじいさんが話しているのは自分ではないんだと気付いて、逆に足元の水溜まりに視線を落とした。
ここには傘爺はいなかった。詠士も変だし、帰りたい。
ぱちゃんと水溜まりを踏むと、おじいさんは思い出したように再びしゃがれた声を紡ぐ。
「すごい! どうして分かるの?」
「私も、さっきのおばあちゃんに怒られたことがあるからだよ。まだ……娘が小さくて、私も仕事が落ち着いていた頃」
「……」
「いつから、私は愛しく怒られなくなったんだろうね……。娘のことも妻に任せきりで、その妻とも小さな諍いが増えていって……私はいつからか、自分の家が信じられなくなっていた気がする。
答えてくれるものならば、私は今も誰かに問いたい。私は……怠惰だったのだろうかと。娘が好きだったもの、妻が私に話したかった日々の想い……妻や娘のことを知ったのは、娘が消えてからの方がずっと多かった気がするんだ。ああすればよかったこうすればよかったと、今になって後悔より重い罪悪感が心にのしかかってきて、なのに頭はからっぽになってしまう。そんなだから──」
ふと、どこか遠くの空を見るように、おじいさんが顔を上げる。その視線と、言葉と。それで詩織は、おじいさんが話しているのは自分ではないんだと気付いて、逆に足元の水溜まりに視線を落とした。
ここには傘爺はいなかった。詠士も変だし、帰りたい。
ぱちゃんと水溜まりを踏むと、おじいさんは思い出したように再びしゃがれた声を紡ぐ。