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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺
 いつもとは異なる眼差し。双子である自分が、生まれてからずっと一緒だったはずの自分が、見たことのない瞳。
「詠士……」
お互いに名前を呼ぶだけで、何が言いたいのか分かる。だから詩織の問いかけに、詠士はますます眉を下げて答えた。
「……俺、やっぱりさっきの人のところに帰る。帰らなきゃ──」
「なに言ってるの? あたし達は、あたし達のお家に帰るんでしょ?」
「違う……よく分かんないけど、俺……帰らなきゃ。あの人と、一緒にいなきゃいけない気がするんだ。だから俺は、ここに残る。この人と一緒に、行くよ」
「詠士──」
思いがけない詠士の言葉に、詩織の目が見開く。何が起きたのか、詠士が何を言っているのか、まったく理解できなかった。
 おじいさんは何も言わず、ただジッと自分達を見つめている。あの重たげな瞼で、曇り空の瞳で。
「そうか……、君は……本当に……」
しかしやがて、それだけをぼそりと呟くと、優しく眉を下げて笑んだ。
 また詩織には理解できない。
 おじいさんはそれ以上なにかを語ることもなく、詩織にだけ軽く頭を下げると、ゆっくりと踵を返す。光の口に向かって、自ら食われに歩みを進める。そしてそれにつられるように詠士も小走りに駆け、傍らに並ぶ。
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