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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺
 ──今度こそ、追いかけて。追いかけて、追いかけて、追いついて!
 あの光に向けて、手を伸ばして。伸ばして、伸ばして、引きあげて!
 ──今度こそ、あたしが。
 私が。

 「──詠士ぃぃっ!!」
バシャリと水たまりを踏み、詩織は走る。思い切り腕を伸ばして、走る。
 速く。もっと速く。
 射し込む光をめがけて。世界を裂いて。水の糸を裁ち切って。
 回転扉に消えるおじいさん。くるくると、裏表が廻る扉の中で、世界が混ざる。あちら側に抜けたおじいさんは、また静かに振り返って、こちら側を臨む。待つ。詠士ではない、誰かを。
 回る扉は、今度こそその誰かを呑み込もうと空間を開く。小さな体が、吸い込まれるように──一歩。
「詠士──!!」
腕と手が、雨の糸を千切る。
 最初に指先が届いたのは、ランドセルだった。
 目の前に、色鮮やかな花が広がる。かわいい動物の絵。世界中の子供達。くじら雲。虹色の箱。



 ばしゃん、ばしゃり。ガシャン。カラカラ。
 暗転した視界の中、派手な水音だけが弾ける。
「……」
「いってぇ──詩織? 詩織! 大丈夫か?」
「……ん。あ……えい、じ? ──詠士!」
勢い余って、二人して思い切りひっくり返ってしまった。詩織が慌てて飛び起きると、詠士はいつもと変わらない雰囲気で、キョトンとした顔で詩織を見つめ返してくる。
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