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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺


 祖父の代に建てられ父母のためにリフォームした家は、今はもうそこここに古びた影を落としている。孤独という空間の色。老いという時間の色。締感すらない、ただ音もなくにやけるだけの悪魔と同居しているような虚ろな感覚だった。
 小銭入れだけズボンのポケットにあることを確認して靴べらを取れば、靴箱と傘立ての隙間に萎れた蜘蛛の巣が埃と共に丸かっているのに気付いた。
 もはや虫すら住まない家。
 家も、庭も。昔は新しく、美しかったのに。今はすべてが灰色の世界。
(……雨のせいだ)
今日だけじゃない。今までも、これからも。考えていたら、いつの間にか外に出ていた。ドアを閉めた音すら覚えがない。気付けば手には、水色の傘が握られていた。
 「こらー、君たち! そこで何してるのー!」
「わっ……お巡りさん!」
「ご、ごめんなさいっ!」
不意に聞こえてきた、若い女性の声と子供特有の甲高い声に顔を上げれば、久しく浴びることのなかった日の光が目に飛び込んできた。
 沁みるような目の痛みに、一度ぎゅうっと目をつむる。瞼の中でじわじわと血と光が這い、次におそるおそる目を開いたときには、我が家の門柱の先で二人の子供と女性警察官が何やら話をしている姿が見えた。
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