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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第1章 初髪、初鏡
 全部見透かされているように名を呼ばれ無邪気に笑まれれば、惚れた弱みを持つ日嗣にはそれは祖母の憤怒の顔よりも敵わない。
 日嗣は少しの沈黙の後、神依をむぎゅっと乱雑に抱きしめると不機嫌そうに告げた。
「お前は俺の巫女だからな。……初瀬に騙されるな」
「? はい」
一体何のことやら、けれども単純にぎゅっとされて嬉しかった神依は素直に頷いて、日嗣に導かれるまま自室に入る。
 そもそも何故自分の部屋に日嗣と初瀬がいるのか、別段見られて困るものは何も無いのだが──いや、やはり下衣(したぎ)などを漁られても困るのだがそれは全力で日嗣が阻止してくれるだろうし、何なんだろう──
「……!」
──と、部屋に入った神依は、目に飛び込んできた光景に瞬く間に硬直した。
 そこに在ったのは、よく見慣れた自分の部屋に立つ全く見覚えのない正装の男性。
 しかしその佇まいは日嗣同様洗練されて、隙が無い。横顔の線は鼻も唇も全て美しい流線を描き、白の衣が作る光と影が、美しさのみにもあらず、張り詰めた男の凛々しさを表している。
 きっちりと結い上げられた黒髪に映える朱漆の簪、けれどもそれとは対象的に遊ばせた前髪の間からは涼やかな目元が覗いて、ふとそれに捕らえられた神依はドキリと胸を高鳴らせた。
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