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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第1章 初髪、初鏡
 男は末広を黒と金糸の品の良い帯に差し最後の支度を整えると、口角をわずかに上げ神依の元へ歩み寄る。雪の下の万両(マンリョウ)のような、白と、赤と、黒の慶事の色。その長い袖も裳裾も見目に心地好く、小粋に翻して。
 そして動けないままでいる神依の頬を両手で抱くと、まるでこれから睦事を始めるかのように顔を近付けその目を覗き込んで、艶(あで)やかに笑んだ。
 「余に独り寝を強いたこと……今ならばそちも後悔してくれようか? のう──神依」
「……っは……?」
 その、昨日一日であまりに聞き慣れた声で紡がれた尊大な言葉に、神依はぽかんと口を開いたまままじまじと男を見つめ返しす。
 間違いない。しかしつう、と細まる男の目は仔猫のそれではなく、姿と相まって雪豹のよう。今からでもお前を喰らってやると言わんばかりの加虐的な眼差しに、神依は頬を染めるとおそるおそるその名を口にした。
 「……は……初瀬、様?」
「……」
すると、
「──惚れ直した?」
その男神はコツンと額同士をぶつけ、途端に神依の見知った緩い笑みを作ってみせた。
「──えっ、えっ? ええっ!?」
「……俺はお前達のそういうところが嫌いだ……伍名とか」
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