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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺
何故だろう、無様な姿を晒しているというのに、痛みは同時に、萎えていた精神に少しばかりの活力と満足感をもたらしてくれた。希望も、屈辱も。感情が動くということの喜びは、こんなにも大きなことだったのか。
……そういえば、今日はもう夕の音楽が鳴ってしまったのだった。今から病院に向かっても、きっとわずかな時間しかいられないだろう。こんな足では、あの少女を追うことすらできない。一日くらい、心身を休ませてもいいのかもしれない。
それよりあの子達は……この辺りの子供なのだろうか。あのやわらかな蜜柑色のランドセルは、流行りなのだろうか。そうでなければ、あるいはまた、見つけられるかもしれない──。
「……!?」
振り返った私は、そこであることに気付く。
にわかに色を帯びた玄関。あの少女達を包んでいた綿のような光が視界を彩り、記憶の中の景色を少しずつ少しずつ、蘇らせていく。長い雨の後、曇天を割って射し込む光が世界に日常を取り戻させていくように、辺りが明るくなっていく。
微かに香る、料理の匂い。
ああそうだ。これは……確かに前、妻が言っていた。どうして忘れていたんだろう。
──お願い、絶対よ。
──私、ずっとあのうちで待ってるから──帰ったら、ちゃんとお台所まで聞こえるように、ただいまって言って! あなたもよ──
──私も。
……そういえば、今日はもう夕の音楽が鳴ってしまったのだった。今から病院に向かっても、きっとわずかな時間しかいられないだろう。こんな足では、あの少女を追うことすらできない。一日くらい、心身を休ませてもいいのかもしれない。
それよりあの子達は……この辺りの子供なのだろうか。あのやわらかな蜜柑色のランドセルは、流行りなのだろうか。そうでなければ、あるいはまた、見つけられるかもしれない──。
「……!?」
振り返った私は、そこであることに気付く。
にわかに色を帯びた玄関。あの少女達を包んでいた綿のような光が視界を彩り、記憶の中の景色を少しずつ少しずつ、蘇らせていく。長い雨の後、曇天を割って射し込む光が世界に日常を取り戻させていくように、辺りが明るくなっていく。
微かに香る、料理の匂い。
ああそうだ。これは……確かに前、妻が言っていた。どうして忘れていたんだろう。
──お願い、絶対よ。
──私、ずっとあのうちで待ってるから──帰ったら、ちゃんとお台所まで聞こえるように、ただいまって言って! あなたもよ──
──私も。