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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺
「ああ、そうか……」
すう、と頭から爪先まで、何か重苦しいものが抜けていく。
「私はもう……死んでいたんだなぁ」
それをようやく、ようやく思い出した時、やっと涙と笑みが溢れた。あまりにも遅すぎた後悔の念に行く先を堰きとめられ、同じ時間の中だけをぐるぐると廻っていた自分に、ようやく安寧の時が来たのだとやっと理解することができた。
 先に逝った妻もずっとそんな馬鹿な私に付き合い、何年も何十年も、病みながらもそれを教えてくれていたのだろう。
 すまない。すまなかった。
 皺に枝分かれして滲んでいく涙を何度も拭い、顔を上げる。
(……あの子は)
そしてもう一度、振り向きかけて、やめる。
 今更それを、あえて確かめることもない。
 いつか、何度目かの雨の夕に出会い言葉を交わした少女は、確かに幸せそうだった。
 こんな孤独な老人に、無責任な慈悲を向けられるほどに純粋で。たったそれきりの老人のために、ここを探して訪ねてくれるほど、優しい子だった。両親について朗らかに語り、そして隣にいた双子の少年を取り戻そうと、一心に私の世界を裂いて消えた。
 ならばきっと、あの少年も同じなのだろう。
 私の娘だったものは今、確かに幸せなのだろうから。
(もういい──もう、いいんだね……)
今度はあの少女の眼差しが、それを促す。
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