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恋いろ神代記~神語の細~
第5章 真雪
だが澪は少し視線を動かしただけで、母のような振る舞いも見せない。むしろますます背を丸め、苦なほどに重い物を抱えているかのように顔を歪めた。
「伍名様……。あなた様は……なんのために、今日、ここにお出でになったのですか……。私はもう、巫女の道から外れた身……。私のことは……もうよいのです。いいえ──あなたは、お優しい方。それでも私のことを想ってくださるのなら、どうかこのまま、何も仰らずにお捨て置きください」
澪は意思を持って伍名と視線を交わそうとしない。言葉の最後だけ、幾分か張った──伍名の記憶の中にも残る声で訴えてきたが、それで伍名には十分だった。自分が語らずとも、玉衣の名を出した時点で、澪はもうすべてを理解している。
「……やはり、お前は賢い子だね」
「……」
ああ、と諦めや落胆の意を含んだ息が、澪の筋の浮いた細い喉を震わす。澪はそれ以上の伍名の言葉を拒否するように、ゆらゆらと力なく頭を横に振った。
しかし塞げない耳に、伍名はなおも言葉を紡ぐ。
「その件の巫女は……神依という」
「……」
「神依がお前に会いたいと言っている。もっとも、それを暗に含ませたのは私だけれど。……会ってみないかい」
「……お会いする資格は、私には、ありません……」
「伍名様……。あなた様は……なんのために、今日、ここにお出でになったのですか……。私はもう、巫女の道から外れた身……。私のことは……もうよいのです。いいえ──あなたは、お優しい方。それでも私のことを想ってくださるのなら、どうかこのまま、何も仰らずにお捨て置きください」
澪は意思を持って伍名と視線を交わそうとしない。言葉の最後だけ、幾分か張った──伍名の記憶の中にも残る声で訴えてきたが、それで伍名には十分だった。自分が語らずとも、玉衣の名を出した時点で、澪はもうすべてを理解している。
「……やはり、お前は賢い子だね」
「……」
ああ、と諦めや落胆の意を含んだ息が、澪の筋の浮いた細い喉を震わす。澪はそれ以上の伍名の言葉を拒否するように、ゆらゆらと力なく頭を横に振った。
しかし塞げない耳に、伍名はなおも言葉を紡ぐ。
「その件の巫女は……神依という」
「……」
「神依がお前に会いたいと言っている。もっとも、それを暗に含ませたのは私だけれど。……会ってみないかい」
「……お会いする資格は、私には、ありません……」