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恋いろ神代記~神語の細~
第5章 真雪
「いいえ、その巫女姫は違います。だってあの玉衣すら抗えなかった。あの御令孫が手ずから摘み取り、今も慈しんでいる。あなた様もです。そんな神々が求めた蓬莱の玉の枝を、わざわざつまらぬ色比べに加えることもございません」
そこまで吐いて、澪はまた訪れた時のように身を縮めて顔を伏せてしまう。強く抱きしめられて苦しかったのか、赤子が愚図るような声を上げたが、澪はそれ以上なにも反応しなかった。春を前にほころびかけたつぼみが、季節外れの雪にさらされてまた身を固くするように……再び自らを閉ざしていく。
「……わかった」
そして、それを感じ取った伍名はゆっくりと頷く。いつもの笑みは少し影を潜め、しかし意固地になることもなく、ただ静かに澪に語りかける。
「けれど私を言葉のみで退けられるのは、傑出した心を持つ巫女である証でもある。高天原の神でさえ、それは時に叶わぬことだ。お前の言う玉の枝とて」
「……白芨。伍名様がお帰りになります。お見送りを」
「は……はい。しかし──」
「構わないよ、行こう」
そこまでただ黙していた白芨は、神と主とを見比べ、それでも兄に行けと促されてようやく頷く。神は最後に、「邪魔をしたね」とまるで数日会わなかった程度の短い退出の言葉を澪に告げ、今度こそ柔らかく笑んだ。
「また来る」
そこまで吐いて、澪はまた訪れた時のように身を縮めて顔を伏せてしまう。強く抱きしめられて苦しかったのか、赤子が愚図るような声を上げたが、澪はそれ以上なにも反応しなかった。春を前にほころびかけたつぼみが、季節外れの雪にさらされてまた身を固くするように……再び自らを閉ざしていく。
「……わかった」
そして、それを感じ取った伍名はゆっくりと頷く。いつもの笑みは少し影を潜め、しかし意固地になることもなく、ただ静かに澪に語りかける。
「けれど私を言葉のみで退けられるのは、傑出した心を持つ巫女である証でもある。高天原の神でさえ、それは時に叶わぬことだ。お前の言う玉の枝とて」
「……白芨。伍名様がお帰りになります。お見送りを」
「は……はい。しかし──」
「構わないよ、行こう」
そこまでただ黙していた白芨は、神と主とを見比べ、それでも兄に行けと促されてようやく頷く。神は最後に、「邪魔をしたね」とまるで数日会わなかった程度の短い退出の言葉を澪に告げ、今度こそ柔らかく笑んだ。
「また来る」