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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第1章 初髪、初鏡
 今度こそ神依が自然に笑むのを見ると、初瀬は「さて」と日嗣に目配せする。それに日嗣も一つ息をついて、けれども既に何かを承知のように頷いた。
「ようやくか。時間もあまり無いぞ」
「大丈夫大丈夫、多少遅れたところで何も言われないよ。それに巫女の元に降っておきながら、男と同じ部屋に放り込まれた僕の面子も保たれるってもんでしょう」
「日嗣様……初瀬様? 何を……」
 二人は各々、先程童が卓の上に用意しておいた化粧箱を分けると神依の前と後ろに腰を下ろす。
 初瀬は前。化粧筆やへらを綺麗に傍らに並べ、箱の隣に置かれていた湯をほんの少し皿に注いで色粉を選び、少女らしい花色を帯びた、薄い肌色に練った。
 紅や粉が納められた小物入れはいかにも目の前の巫女が好みそうな愛らしい細工のもので、まだ少し幼さが残る顔立ちにも似合っている。
 日嗣は後ろ。童が選んだ簪や紐飾りから更に自分好みのものを選び、神依から小菊のつげ櫛を預かる。幾つかあった香油も、どうやら自分はあの禊と同じものを神依に望んでいるようで、選んだものは一番量が減っているものだった。
 一方、二人の意図が分かった神依は緊張の面持ちで姿勢を正す。正座をし直し、背筋を伸ばして。
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