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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第1章 初髪、初鏡
残ったのは男達の指が道具を変える時に鳴る小さな音と、離れた場所からたまに届く、床を踏む音駆ける音。ぽそ、と炭が崩れる音も耳に心地好い。
それは神依が安心して二柱の神に身を任せ、またその神々も指先に存分の愛情をこめて、体を重ねない逢瀬に興じているからだった。
肌に指を滑らし、櫛先で分けた髪をすくう。皮膚を伝うその微細な感触は睦む前と後の愛撫に似ていたし、男達もそれを示唆するように指と呼吸と眼差しを流した。
初瀬の指は神依の肌を味わうようにゆっくりと、丁寧に輪郭をなぞる。そして筆を持てば、瞼には接吻するように、頬にはくすぐるように、唇には舐めるように、その穂先をしならせた。
緩く指先で開かせた唇は紅を重ねるごとにぽってりとして、もしも口に含めば熟れた苺のように甘い果汁を滴らせるに違いない。紅を馴染ませるよう上下の唇を触れさせれば、その実はなお玉虫の艶を帯びて糖度を増した。
ああ、と吐息混じりに発せられた男の声に、神依の目にも、初瀬の瞳にあの猛獣染みた光が宿るのが見て取れた。
眼差しがすぐ近くで重なり慌てて目を反らすが、初瀬にはそれも逆に煽られているようで身芯が痺れる思いがする。
それは神依が安心して二柱の神に身を任せ、またその神々も指先に存分の愛情をこめて、体を重ねない逢瀬に興じているからだった。
肌に指を滑らし、櫛先で分けた髪をすくう。皮膚を伝うその微細な感触は睦む前と後の愛撫に似ていたし、男達もそれを示唆するように指と呼吸と眼差しを流した。
初瀬の指は神依の肌を味わうようにゆっくりと、丁寧に輪郭をなぞる。そして筆を持てば、瞼には接吻するように、頬にはくすぐるように、唇には舐めるように、その穂先をしならせた。
緩く指先で開かせた唇は紅を重ねるごとにぽってりとして、もしも口に含めば熟れた苺のように甘い果汁を滴らせるに違いない。紅を馴染ませるよう上下の唇を触れさせれば、その実はなお玉虫の艶を帯びて糖度を増した。
ああ、と吐息混じりに発せられた男の声に、神依の目にも、初瀬の瞳にあの猛獣染みた光が宿るのが見て取れた。
眼差しがすぐ近くで重なり慌てて目を反らすが、初瀬にはそれも逆に煽られているようで身芯が痺れる思いがする。