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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第1章 初髪、初鏡
そうして突如頭の上で勃発したあまりに恥ずかし過ぎる下世話な口論に、神依が慌てて後ろを振り向けば、日嗣は目が合った途端に息を呑んで硬直した。
初瀬の目にも凝りに凝って結い上げられた髪と、自身のものと対をなす黒漆の蒔絵簪が飛び込んできて、一応、今日半日だけ許された妹(いも)の愛らしさにその表情をほころばす。
濡れ羽の黒髪に混じる漆黒と、浮き上がる金。そして玉虫のような不思議な色を醸す瑠璃玉は、きっと初瀬の衣の傍らではとりわけ美しく映えるだろう。うなじをくすぐる後れ毛も、ちょっかいを出したくなる程にふわふわとしていた。眠っている猫に触りたくなるような、何ともむず痒い感覚。
「──日嗣様?」
「あはは、君があまりに綺麗過ぎるから、驚いて固まっちゃった」
「えっ、ほ、本当に? ……変じゃないですか?」
「……、……ああ」
わざわざ視線を反らして、人前ではそれだけしか呟けない男に頬を染めて嬉しそうに笑む少女の心には、どうやら初瀬の居座る場所は無いらしい。
純粋に、男の地位には見合わぬ娘だと思った。けれども今はこの娘以外、その地位の男に恥じらいを持たせることができる者もいない。
(まあ、初な二人にはちょうどいいのかも……)
初瀬の目にも凝りに凝って結い上げられた髪と、自身のものと対をなす黒漆の蒔絵簪が飛び込んできて、一応、今日半日だけ許された妹(いも)の愛らしさにその表情をほころばす。
濡れ羽の黒髪に混じる漆黒と、浮き上がる金。そして玉虫のような不思議な色を醸す瑠璃玉は、きっと初瀬の衣の傍らではとりわけ美しく映えるだろう。うなじをくすぐる後れ毛も、ちょっかいを出したくなる程にふわふわとしていた。眠っている猫に触りたくなるような、何ともむず痒い感覚。
「──日嗣様?」
「あはは、君があまりに綺麗過ぎるから、驚いて固まっちゃった」
「えっ、ほ、本当に? ……変じゃないですか?」
「……、……ああ」
わざわざ視線を反らして、人前ではそれだけしか呟けない男に頬を染めて嬉しそうに笑む少女の心には、どうやら初瀬の居座る場所は無いらしい。
純粋に、男の地位には見合わぬ娘だと思った。けれども今はこの娘以外、その地位の男に恥じらいを持たせることができる者もいない。
(まあ、初な二人にはちょうどいいのかも……)