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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第1章 初髪、初鏡
今は足りないものがあっても、それが後から付いてくることはままある。それに、目に見えるものばかりが全てではないのだから。
 そうして再び化粧道具を取り、互いに最後の仕上げと着付けをしたところへ、機を図ったかのように禊がやって来た。
「──失礼致します。お時間も迫っておりますが、いかがでしょうか」
「お、いいところに来たねえ。今ちょうど出来上がったところだから、入っておいでよ」
「……はい。失礼致します」
襖の向こうから聞こえた声に初瀬が応えると、襖が僅かに開く。殊更に低く手と膝を使いにじり出た臣は、丁寧に襖を閉じ体の向きを変えると、先程の神依や日嗣のように目を見開いて固まった。
「……よく、お似合いでございます」
しかしそれも僅かな時間、深々と神と巫女に頭を垂れれば、その神も満足そうに頷く。
 御自ら禊の真似事を申し出た神にやや不安もあったが……杞憂だったと一目で分かる、主の“できばえ”。
 初瀬が万両ならば、神依はまた藪蘭(ヤブラン)の実のように、一時の背となる男神の側に慎ましく控えていた。
 黒と金、そして日影の桃とも紫とも見れる小花が染められた衣は、それだけ見ればいかにも主が好みそうな可愛らしいものではあったが──
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