- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
「なんかすっげえ疲れた顔してるから。……気にすんなよ」
「……ありがとう」
童達に取っては甘いものは本当に貴重なのに。これだって、頑張って集めたものだったろうに──。
九ノ弟が礼を言うと、その童は何も言わず駆け出していく。
「……、ん」
ひとかけら口に入れれば、ほのかな甘味に凝り固まった体の芯がすうっと溶けていくようで、何故か涙がぽろぽろ溢れた。
何気ない甘さが、純粋に嬉しかった。
干菓子の中には小さいながらも丸々千鳥の形を残したものもあって、九ノ弟はなんとなくその童を見掛ける度にそれと重ね合わせ、“雛”という言葉を思い浮かべるようになった。
態度はそれなりに“いっちょまえ”だったのだが、自分より幼かったのだ。
ただ──その雛は割合と、悪い方に有名な存在らしかった。
*
その日も工房に向かうと、例の雛が背に別の童を庇い、自分より大きな童達に囲まれていた。
「──やめろよ! コイツがお前達に、何したって言うんだよ!」
「またお前かよ! お前には関係ねーだろ、そいつが──」
九ノ弟はそれを遠巻きに眺め、またかと思う。またいじめられっこを庇い、敵うわけもない、しなくてもいい喧嘩の矢面に立っている。
「……ありがとう」
童達に取っては甘いものは本当に貴重なのに。これだって、頑張って集めたものだったろうに──。
九ノ弟が礼を言うと、その童は何も言わず駆け出していく。
「……、ん」
ひとかけら口に入れれば、ほのかな甘味に凝り固まった体の芯がすうっと溶けていくようで、何故か涙がぽろぽろ溢れた。
何気ない甘さが、純粋に嬉しかった。
干菓子の中には小さいながらも丸々千鳥の形を残したものもあって、九ノ弟はなんとなくその童を見掛ける度にそれと重ね合わせ、“雛”という言葉を思い浮かべるようになった。
態度はそれなりに“いっちょまえ”だったのだが、自分より幼かったのだ。
ただ──その雛は割合と、悪い方に有名な存在らしかった。
*
その日も工房に向かうと、例の雛が背に別の童を庇い、自分より大きな童達に囲まれていた。
「──やめろよ! コイツがお前達に、何したって言うんだよ!」
「またお前かよ! お前には関係ねーだろ、そいつが──」
九ノ弟はそれを遠巻きに眺め、またかと思う。またいじめられっこを庇い、敵うわけもない、しなくてもいい喧嘩の矢面に立っている。