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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
 そして、一際月が明るく大きな夜──
「……お前には何か、楽の心得があるか」
「……!!」
その神は、優沙達の前に唐突に現れた。



 三人で通うようになって、いかほどのことであっただろう。
 優沙と禊もまた、童がそうしていたように社の前で……朱の楼閣に向かうようにして叩頭していた。
 木々の葉の擦れる音、水が流れる音、夜鳥の声。角の取れた砂利をかき混ぜたような、雑多な形の音。そんな祈りの中、突然頭上から涼やかな声が投げ掛けられた。
 石の中に落ちてきた玉の色は鮮烈で、三人は何が起きたか分からず一瞬息を呑んだ。優沙はその声の主を確かめるべく顔を上げようとするのだが、それも叶わず、途中でこつりと何か細いものに押し留められる。
「……二度は言わぬ。答えよ」
「──……っ」
代わりに視界に映ったのは、裾も、沓(くつ)も、蒼みを帯びた白に銀糸で豪奢な装飾がなされたもの。
 緊張から体が強張り声は上手く出せなかったが、優沙は混線する頭で必死に家にある楽器を思い出して答えた。
「ふ……笛と鼓、それから……それから……琴と……、それからっ……」
「……ほう」
裏返ってしまった声に羞恥から赤く顔を染め、しかし神ははなから気にした素振りも無く……ただ意外そうに、喜びの感を滲ませたような声音で頷く。
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