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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
「よかろう……面を上げよ」
「っ、は……はい」
頭を抑えていた何かが離れ、優沙はその神を窺うようにぎこちなく、ゆっくりと顔を上げる。
そして、その神の姿をみた瞬間──驚愕から再び息を呑み、目を見開いた。
手には黒の神楽笛、纏う衣は銀粉をまぶした蒼と白。首や腕の玉飾りさえ青白い幻想的な光を湛え、闇に浮かぶその様はまごうことなく月の様(さま)。そして男とも女とも思える──故にこそ最高に美しい面立ち、何より稀なる銀の髪と瞳を見て、一体誰がその存在を違えることが出来るだろう。
「つ……月読命様……」
ざあ、と一陣の風にその銀(しろがね)の髪と衣とが靡く。その余りに……非現実的な美しさに、優沙の心臓は鼓動を早め体の熱を上げる。
一方月読は優沙の右半身を一瞥すると、蔑みと嘲りと、わずかな哀れみを含ませた目で応えた。
「……存在に気付かれず、無意に命を絶たれ、それすら蔑ろにされ、慟哭さえ聞き届けられぬ……。荒ぶる端神に祟られ、その身を焼いた愚かな娘よ……。しかし今は同じ夜を生き、楽の音を愛する者の誼(よしみ)だ。……お前のその右腕の朱印、私が抑えてやってもいい」
「──あ……っ」
「っ、は……はい」
頭を抑えていた何かが離れ、優沙はその神を窺うようにぎこちなく、ゆっくりと顔を上げる。
そして、その神の姿をみた瞬間──驚愕から再び息を呑み、目を見開いた。
手には黒の神楽笛、纏う衣は銀粉をまぶした蒼と白。首や腕の玉飾りさえ青白い幻想的な光を湛え、闇に浮かぶその様はまごうことなく月の様(さま)。そして男とも女とも思える──故にこそ最高に美しい面立ち、何より稀なる銀の髪と瞳を見て、一体誰がその存在を違えることが出来るだろう。
「つ……月読命様……」
ざあ、と一陣の風にその銀(しろがね)の髪と衣とが靡く。その余りに……非現実的な美しさに、優沙の心臓は鼓動を早め体の熱を上げる。
一方月読は優沙の右半身を一瞥すると、蔑みと嘲りと、わずかな哀れみを含ませた目で応えた。
「……存在に気付かれず、無意に命を絶たれ、それすら蔑ろにされ、慟哭さえ聞き届けられぬ……。荒ぶる端神に祟られ、その身を焼いた愚かな娘よ……。しかし今は同じ夜を生き、楽の音を愛する者の誼(よしみ)だ。……お前のその右腕の朱印、私が抑えてやってもいい」
「──あ……っ」