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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
どこか気だるそうな、間延びしたその言葉を反芻し──本当に、と頭の中で言葉が浮かべば、留める間も無くぽろぽろと涙が溢れる。
「……っありがとうございます……、ありがとうございます……!」
堪らず優沙は、再びその額を地に擦り付けた。
 この夜の世界で、この神に抗うことができる者など在るだろうか。今日までの精神をすり減らすような暮らしからようやく解放される。禊や童を解き放ってあげることができる。優沙はその安堵を得て、心から絞り出すように謝辞を述べた。
 しかし神は薄ら笑い、その場に片膝をつくと……慈しむようにその優沙の頭を撫でる。
「……その殊勝な態度、嫌いではないぞ。……しかし祟りを解くため、私の言うこと、寸分違わず為せるか?」
「それは……! もちろん……!」
その優しい愛撫と共に掛けられた問いに、優沙は頬を紅潮させ答える。
 ──こんな幸運をみすみす逃すわけにはいかない。せっかく、天津神の……それも三貴子の一人から応(いら)えを頂戴したのだ。しかもそれが、巫女の口に上がることの多い月読であったことに、優沙は感謝と共に大きな喜びを感じていた。貴く、美しい男神。だからそれに尽くそうと、そう返事をしたつもりだった。
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