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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第1章 初髪、初鏡
 そして先程まで自分が背を向けていた方を見た瞬間、
「おはよう、神依」
「──ッきゃああああ!!」
日嗣ではない、朗らかに笑む見知らぬ男と目が合って、目一杯の声で叫んだ。

***

 「──神依!!」
「神依様!?」
日嗣と禊が飛び込んで来たのは、その直後だった。
「ひ、日嗣様、禊……!」
禊は既にいつもの姿で、日嗣もまた寝着ではなく緩い着流しの姿で。日嗣は襖を叩きつけるように開くと、壁に背を付けてへたりこんでいる神依ともぞもぞと蠢く布団の塊をすぐさま認めて、手にしていた剣の鞘でその塊を目一杯突く。
「いだッ!」
「──その声は──」
そしてそれと同時に聞こえてきた情けない若い男の声に、怒りと呆れの混ざった顔で布団を引っ剥がし、その闖入者の首根っこを鷲掴みした。
 「初瀬(はつせ)様──」
だがその男の姿を認めた禊は改めて礼を取り、神依の衣を整えると隣に並ぶ。
「禊……、えっ、このひと神様なの?」
「はい。初瀬様は松飾りや鏡餅などの正月飾りを依りに、新年、人家にお降りになってその家々の一年の平安や繁栄をもたらす守護をお授け下さったり、その家人らを満たし命の礎となる、穀物の豊穣をもたらして下さる“年神(としのかみ)”であらせられます」
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