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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
「……いいえ……、……愚かなのは私……私一人です。禊と童はそんな私に付き合わされた哀れな僕(しもべ)。私が尽くすべきはあなた様ではなく……あの花の神でした。
だからどうぞ……お慈悲を頂けるなら、共に。私は哀れな僕のためにも……仰せのままに、なしてみせます」
「ゆ……優沙様……」
九ノ兄の辛うじて体を成している声に、優沙は感謝と諦観と覚悟を同時に持つ。乾いた喉をかすめるような声。それでも、ずっと自分を支えてくれた。
 そう、優沙が尽くすべきは月読ではなくあの小さな花の神であり、報いるはこの臣だったのだ。神は暗に優沙の、まず成すべきことを教えてくれた。
 浮わついた感情を冷まし、色に染まって熟れ切った性根を氷付かせて。凍てついたそれが砕け散る程、冷厳な言葉で諭してくれた。
 自らの無知が招いたことに加え、また自らの無知が愛しき者達を傷付けることを……心に刻んでくれた。
「……ならば、参ろう。案内(あない)せよ」
「はい……」
だから神は神として、それをきちんと理解した良い子を褒め、或いは泣きじゃくる子を癒すように、こんなにも優しく頭を撫でてくれる。
 夜道を行く覚悟の無い者を、月が導く道理は無い。当たり前のことだった。
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