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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫


 そして優沙は神を伴い邸に戻ると、禊に頼んで庭に面した廊下に琴を運んでもらい……未だ眠りにつく花を前に、ようやく膝を折った。
 背後を窺えば、神は気だるそうに手酌し酒を口に含ませている。せめてもてなしをと、そんな禊の心情さえ右往左往させて、大して美味くもなさそうに。
 それは、本当に何の感傷もない面立ち。
 優沙はちらりとそんな神を見、しかし言葉も貰えぬことを悟ると……自らの勇気と矜持だけを振り絞り、再び前を向いた。
 用意させた琴は、音に場を浄める力が宿るという六絃(ろくげん)の御琴。故に古くは奏者も定められていたが、今はそこまで厳密ではなくなった。優沙は何故かこの音が好きで、以前はよくかき鳴らしていたものだった。
 だったのに──
(この感触……いつ以来かしら……)
もう思い出せない。
 琴の頭を膝に乗せれば、久しぶりの重みにしっくりとした感触を心が得る。楽しさを帯びたその圧迫の記憶に、足の神経はじんわりと喜びを噛みしめているようだった。
 弦を弾くための琴軋(ことさぎ)に手を伸ばせば、体のわずかな動きと共に六本の弦の上を月光が滑る。光が行く先、弦の絃(ひも)を留める緒の色模様も自分で選んだもので、お気に入りだった。
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