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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
 瞼の闇の中で、夜風に揺れる花の音が像を創る。花の音は何かたくさんの小さな粒が、上へ下へ、右へ左へとまろんで戯れているように見えた。
(大丈夫……これは禊と童が紡いでくれた、今という時間の音。琴とよく似た、私も知っている音。だから……大丈夫よ。しっかりして)
そうして自らを暗闇の中で鼓舞し……ゆっくりと目を開いた優沙は、頭の中で基となる音を思い浮かべながらついに、一息──弦をかき鳴らした。
 その瞬間──
「……!」
夜気に、その音が色と転じて、爆ぜる。
 月夜の灰青の下にも分かる深紅。庭一面に根を張る花が一斉に、次から次へとその花弁を開き始めたのだ。
 ふわふわふわふわ。ふわふわふわふわ。
 丸みを帯びた花弁がふわりと、しかしその勢いは狂乱してくるくると舞う女の裳裾のように。
 ふわふわふわふわ。ふわふわふわふわと。
 そして女が増えれば増えるほど、むせかえる程の甘い臭いが浄められた夜の空気を濁していく。
 しかし──
「ひ……ッ」
しかしやがて女達は、プツリと。
 何かを訴えるように自らの首をもぎ、そしてすぐにその細い胴から鮮血の色をした新たな首を歪に生やして、地や池をなお赤く染めていくのだ。
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