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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
 ──それはあたかも、人を喰らい尽くす、伝染(うつ)る病。それを形にしたかのような光景だった。
 そして、その紅の中から影が滲(し)み出すように……蟲が地中に湧く。ぐずぐずとした泥を伴って黒い影となり、庭土の上を這ってにじりよる。
 やがて根底から震えるような低い羽音を唸らせて一匹が宙に浮かべば、音も形も夜の嵐に揺れる梢の如く、巨大な蜂の群れとなって優沙の前に姿を現した。
 「あ……ぁあ……!」
それを見た優沙は、頭から一気に冷水を浴びせられたように体を震わせた。
 指先はたった一度で音を奏でることを止め、代わりに空気を揺らすのはちりちりとじじめく羽音だけ。眼前から鋭利に角張った礫をぶつけられているようで、目さえ痛くなった気がした。せめて擦ってそれを癒したいのに、もう左手でさえ動かない。
「優沙様──!」
そうして唇まで青くするほど血の気を無くし恐怖に肩を震わせる優沙に、背後で控えていた禊と童が息を呑み腰を上げる。だが、
「……待て」
しかし、それはすぐに、月読によって留められた。
 「つ……月読様」
先程まで何の興味も無さそうに、気配すら感じさせぬように在った神はゆらりと立ち上がると、二人には目線も寄越さず優沙の傍らまで歩み出る。
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