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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
 (あ──)
直後優沙の耳を震わせたのは、蟲が生み出す羽音すら自ら恥じ入るように虚空で一歩を退く、清涼とした笛の一音。風にも獣にも鳥にも形容し難い、高く伸びやかな音だった。
 では何の音だろうと考えれば、優沙はすぐさま月の音だと頭の中でその像を結んだ。たとえば龍笛が望月の音ならば、今神の奏でる笛の音は三日月の音。媚びぬ鋭利さを孕みながら、人を傷付けることはない──冬野を走る光のように、ただ在るだけで美しい音──。
 たゆみなく空へと伸びるその音は、決して重いものではないのにそんな凛とした存在感を示して、優沙の心を内側から大きく揺さぶった。
 (──弾きたい)
 ──私も、弾きたい。
 同じ道を歩む者として、遥か先を行く神が示してくれた一音は、協奏で琴の弾き手に与えられる音を調えるための音。何を求められているのか──優沙は頭で理解する前に立ち上がって、琴の元へと戻った。
 「……」
そしてそこに再び座せば……眼差しは自然と、今ここにあってくれた紅き女達とその刃である蟲達へと向かう。
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