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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
夜の神は、優沙を慰め、労ってくれるようなことは何もしなかった。数多の男神のように、肩を抱いたり肌を撫でたりはしてくれなかった。けれども確かにその音でもって、優沙の心を浄め、闇に染まった視界を鮮やかに開いてくれた。
だからこそ、妻問いに訪れる男神達に捧げてきた音とは異なるものを、今ならば奏でられるような気がした。女として……優沙として自らが高めてきた音を、今ならば──巫女として。
優沙は一度指をつき、顔が琴よりも低くなる程に深々と頭を下げる。禊や童と共に、朱の楼閣に向けて夜な夜な捧げてきた祈りの形を、花の神へ向けて捧げる。
巫女としてこの淡島に生まれ出でながら、その存在に気付かなかった。自らの不幸を嘆き怨むばかりで、その行動を顧みなかった。その浅はかな振る舞いで、ずっと側近くにいてくれた大切な人達まで傷付けてしまっていた。それをようやく、知れた。
そしてその背を見守っていた禊と童も、同じように頭を垂れる。畳に額を擦り、主の贖罪の機会を乞う。
あの頃とはもう違う。違うのです──と精一杯、心の中で訴える。
だからこそ、妻問いに訪れる男神達に捧げてきた音とは異なるものを、今ならば奏でられるような気がした。女として……優沙として自らが高めてきた音を、今ならば──巫女として。
優沙は一度指をつき、顔が琴よりも低くなる程に深々と頭を下げる。禊や童と共に、朱の楼閣に向けて夜な夜な捧げてきた祈りの形を、花の神へ向けて捧げる。
巫女としてこの淡島に生まれ出でながら、その存在に気付かなかった。自らの不幸を嘆き怨むばかりで、その行動を顧みなかった。その浅はかな振る舞いで、ずっと側近くにいてくれた大切な人達まで傷付けてしまっていた。それをようやく、知れた。
そしてその背を見守っていた禊と童も、同じように頭を垂れる。畳に額を擦り、主の贖罪の機会を乞う。
あの頃とはもう違う。違うのです──と精一杯、心の中で訴える。