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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
 知識がないからこそ、技術がないからこそ、純粋に音を楽しむという……奏者に取ってはかけがえのない力を、また二人は自然と持つようになっていた。
 だからこそ二人には分かる。神に合わせ音を調える、ただそれだけの音が、少しずつ変わっていくのがはっきりと聞き取れる。
 優沙がかき鳴らす琴の音と月の神が燻らす笛の音は互いに互いを結ぶように空中で混じり、不思議な浮遊感をもって耳の奥を震わせていった。
 瞬きの差で折り重なり、満ち引きを繰り返す弦の音。時に長く、時に短く、棚引く髪のように、揺れる袖のように、しなり、囀ずる笛の音。
 特に耳慣れた琴の音は、確かに今までとは違う……我(が)でもって技を誇るのでなく、競るのでもなく、見返りを求めるのでもなく。今までのように「上手」なものではなかったが、それでも禊と童の胸には熱いものが込み上げてきて、禊は堪らず再び頭を垂れた。九ノ兄は泣いているのだと、九ノ弟には分かった。
 音はそんな涙を拭うように緩やかな調べとなり、調べは優しい祈りへと変わり、祈りは世界ごと包み込むような妙(たえ)へとその姿を変えていった。
 それは闇夜を導く月の神の柔らかな和御霊と、巫女たる優沙の真心でもって織られた温かなもの。
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